||地域振興研究||  

定量分析による新産・工特制度の評価 (1999年3月)
 本レポートでは、新産・工特地区(21地区)の立地条件から期待される工業出荷額を算出し、実績値と比較することにより、新産・工特制度の効果を評価する。
目次

1.新産・工特制度の概要
 (1) 制度の概要   
 (2) 整備事業の内容
 (3) 地方自治体に対する助成の状況

2.新産・工特制度の評価
  (1) 工業集積の観点
 (2) 工業出荷額に対する制度の効果の推計

1.新産・工特制度の概要

(→内容はこちらへ)

(新産・工特地区指定状況図)
(新産・工特地区のデータはこちらへ→「人口」「工業出荷額」

2.新産・工特制度の評価

(1) 工業集積の観点 

 新産・工特地区の工業集積度をみると、昭和38年においては、新産・工特地区全体で0.63、新産地区で0.46、工特地区で1.19となっており、その後昭和48年になると、新産・工特地区全体で1.08、新産地区で0.81、工特地区で1.91となっている。

  また、直近年である平成7年においては、新産・工特地区平均で1.19、新産地区で0.86、工特地区で2.18となっている。

 以上により、工特地区では平成7年で2を上回る高い集積度となっている一方で、新産地区については未だ十分な集積が達成されているとは言えないが、総じてみれば、制度創設後工業集積が着実に進展している姿が読みとれる。

 次に、各地区毎の工業集積度について、昭和38年と平成7年の二時点間で比較すると、全ての地区で工業集積度が上昇しているが、比較時点を変え、石油危機時(昭和48年)と平成7年の二次点間で比べてみると、低下している地区が4地区ある(道央、日向延岡、岡山県南、備後)。

 平成7年度の工業集積度をみると、全体21地区のうち、主に工特地区を中心に5地区において2を上回る高い集積度となっている(鹿島、東駿河湾、東三河、播磨、周南)一方、10地区においては全国平均である1を下回っている。

 また、各地区毎の工業集積度の推移からは、以下の特徴が読みとれる。
・工特地区等主に地理的な条件に恵まれた地域で高い伸びがみられる。
・もともと工業集積があった工特地区(鹿島を除く)や岡山県南、東予では、すでにインフラ整備がなされていたこともあり、石油危機前までに着実に工業集積が進んだ。
・指定前に十分な集積がない地域においても、鹿島、大分のように指定前からインフラ整備を行うなど、地元自治体の積極的な取り組みがなされていたところでは、石油危機前に工場立地が進み、当初の目標通り工業集積が進んだ。 ・石油危機以降は、多くの地区で横ばいないし微増にとどまっており、逆に道央、日向延岡のように集積度が低下している地区もある。

 以上を要約すると、制度の創設後、石油危機までは工業集積の伸びは大きかったと言える。特にもともと工業集積があった地区、迅速な対応ができた地区において伸びが著しい。その後は産業構造が変化するなかで、有利な地理的条件を有する地域で伸びているものの、多くの地区において工業集積の伸びは石油危機前に比べ鈍いものとなった。

[グラフ.新産・工特地区における工業集積の推移]

 

(2) 工業出荷額に対する制度の効果の推計

 以下では、新産・工特制度が各地区の工業出荷額をどれだけ押し上げたかについて、計量モデルをもとに分析した結果を紹介する。

 分析方法は、まず、全国251地区の工業地区(新産・工特21地区を含む)の工業出荷額増加額を説明する変数として、立地条件を表す指標を置き、推計式を求める。

  その推計式により、各地区について、立地条件から期待される工業出荷額増加額の推計値を算出することができる。その推計値に対して、実際の新産・工特地区の工業出荷額増加額が上回っていれば、新産・工特制度の効果があったものと評価できると考えた。

 計測期間は
@ 第一期:制度発足当初(昭和41年)→石油危機直後(昭和50年)
A 第二期:石油危機直後(昭和50年)→バブル直前期(昭和60年)
B 第三期:バブル直前期(昭和60年)→直近(平成7年)

と設定した。

  立地条件を表す指標は、以下のとおりである。

@ 市場へのアクセルビリティ (製品の市場への近接性を示す指標)
 < Σ(n地区の人口÷(当該地区からn地区までの時間距離)^2.1) >
  対象となる251地区の中心都市を設定し、それぞれの中心都市間の自動車による時間距離を測定する。高速道路がその時点で存在し、利用したほうが早い場合は利用する。橋やトンネルがない場合は、フェリーでの移動時間と待ち時間を加える。

A 特定重要港湾へのアクセスビリティ (原材料・製品の移輸出入の容易性を示す指標)
 < Σ(n港の岸壁長÷(当該地区からn地区までの時間距離)^2.1) >  
  251地区の中心都市から特定重要港湾までの時間距離を測定する。条件は@と同じ。

B 地区の人口 (労働力の存在を示す指標)

C 製造業常用労働者給与月額 (労働力のコストを示す指標)

D 地区内の住宅地の平均地価 (工場、従業者の住宅等のための土地コストを示す指標)

E 期首工業出荷額 (地区の既存の工業集積を示す指標)

 以上の指標から求められた重相関分析による決定係数〔r2〕とt値は、以下のとおりである。

[表.重相関分析による決定係数(r2)とt値]

 
第一期
第二期
第三期
   決定係数(r2)=
0.8297
0.8311
0.2719
指標1.市場・取引企業へのアクセスビリティの指数
3.345
8.003
2.992
指標2.特定重要港湾へのアクセスビリティの指数
7.412
指標3.若年人口(仮置き:全世代人口) (千人)
-7.049
指標4.製造業常用労働者給与月額(円)
3.820
3.345
指標5.地区の住宅地の平均地価(円/u)
-2.826
-10.560
指標6.期首工業従業者数(人)
4.318
指標7.期首工業出荷額(百万円)
6.569
13.490
3.063
("−":有意確率95%以下、または、多の指標との共線性が高いため、分析から除いた指標)

 

 求められた推計式は、以下のとおりである。

[第一期] 工業出荷額増加額(1966→1975年)=161.3*指標1 + 28.40*指標2 + 3.172*指標4 - 5.158*指標5 -154,535

[第二期] 工業出荷額増加額(1975→1985年)=76.00*指標1 - 7.931*指標5 + 0.6739*指標6 + 130,649

[第三期]  決定係数は0.2243となり、これらの説明変数では工業出荷額増加額を表すことはできなかった。

 上記の推計式から計算される工業出荷額増加額と実績値を比較したグラフは、以下のとおりである。

 実績値が計算値よりも上回る場合は、左上に位置する。左上にあるほど(実績値÷計算値が大きいほど)、立地条件により期待される額より実際の額が大きいということになる。(全251地区の数値を示した表はこちらへ)

 第一期(昭和40年代)の場合、新産・工特地区では、ほとんどの地区が上回っており、特に、東予、鹿島、周南、備後、岡山県南、播磨などが高い。全21地区の実際の工業出荷額増加額は、推計式で求められる増加額(立地条件から期待される増加額)の2.00倍となっており、制度の効果が大きかったものと推測される。

[グラフ.工業出荷額に対する制度の効果(第一期:1966→1975年)]

 

 第2期(昭和50年代)についても新産・工特地区は大きく成長しているが、立地条件から期待される増加額の比較では1.08倍と全国平均レベルに近いものとなる。地区別では、松本諏訪、徳島などが高く、秋田湾、日向延岡、道央などが低い。

[グラフ.工業出荷額に対する制度の効果(第二期:1975→1985年)]

 

 第3期(1985年(昭和60年)〜1995年(平成7年))は、立地条件を表す指標(マーケットや港湾への時間距離、労働力の存在、労働コスト、土地コスト、既存工業の集積)で工業出荷額の増加額を説明することができない。すなわち、このような立地条件が工業立地に与える影響が小さくなったものと考えられる。  

 以上の分析により、新産・工特制度は、第1期においては工業出荷額を大きく押し上げ、大きな政策効果をもたらしたが、第2期以後その効果は薄れ、最近では工業出荷額に与える影響は少なくなっていることがわかる。

 

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